1. 熱狂の裏側で起きていた「ミスマッチ」

2010年代中盤、国産旅客機(MRJ)の開発が佳境を迎え、日本中が航空機産業への期待に沸いていました。
国や自治体もこの動きを後押しし、各地で「航空機産業クラスター」が次々と組成されました。

当時の熱気は凄まじく、2016年4月の時点では、全国に40以上もの航空分野参入を目指す組織が立ち上がり、およそ1,000社ものものづくり企業が参加していたほどです。
補助金制度も充実していたため、多くの企業が「参入へのパスポート」としてJISQ9100(航空宇宙品質マネジメントシステム)を取得しました。

しかし、その後の結果はどうだったでしょうか。
MRJの開発難航・凍結という不運もありましたが、それ以上に深刻だったのは、「認証を取ったのに仕事が来ない」という企業が大量に発生したことでした。

2. データが語る残酷な真実:772社 vs 240社

当時の状況を端的に表すデータがあります。
参入ブームの結果、2018年3月時点で、JISQ9100を取得している企業は国内で772社に達していました。

しかし、実際に航空機関連の事業を行っていた企業(帝国データバンク登録)は、JISQ未取得の企業を含めても、わずか240社に過ぎなかったのです。

単純計算すれば、認証ホルダーの約7割にあたる500社以上が、「JISQという免許は持っているが、仕事(運転)をしていない」、いわばペーパードライバー状態だったと言えます。
維持費のかかる認証を抱えながら仕事がない。この「維持費倒れ」こそが、多くの撤退企業を生んだ最大の要因でした。

3. なぜ認証だけでは通用しないのか

なぜ、これほどのミスマッチが起きたのでしょうか。
当時、運良く受注できた企業もありましたが、その多くは自動化が進みコスト競争が激しい「機体構造部品(アルミ部品など)」でした。一方、高付加価値な「航空エンジン部品」に参入できた企業は皆無に等しかったのです。

その理由は、エンジン部品の管理レベルが「別格」だからです。
重工メーカーは、商談会でJISQの証書を見せられても、それだけでは信用しません。彼らが見ているのは、「その認証(仕組み)を使って、実際にエンジンの厳しい要求品質(プロセス管理)を回せる実力があるか」です。

  • 機体(構造): 「図面通りのカタチ」ができれば、ある程度評価される。
  • エンジン: 「結果」だけでなく、「工順・治具・工具・加工条件・検査方法などのプロセス全て」が管理・凍結されていることが求められる。

この「運転技術(プロセス管理能力)」を証明できない限り、いくらJISQという「免許」を持っていても、重要保安部品であるエンジンの仕事は決して発注されないのです。

4. 「模擬実績」から始める、確実な参入ステップ

今、航空機需要は再び急回復していますが、過去の失敗を繰り返してはいけません。
いきなりJISQ9100を取りに行くのではなく、まずは「航空エンジンの流儀(プロセス管理)」を体感し、自社の実力を証明できる「データ(模擬実績)」を作ることから始めるべきです。

エヌブリッジの支援プログラムでは、実際のエンジン部品を模した「模擬部品」の製造を通じて、重工メーカーが求めるレベルのプロセス管理を実践します。
認証という「形式」から入るのではなく、モノづくりという「実態」から入る。

「JISQはこれからですが、エンジンの要求事項を満たしたプロセス管理で、この難削材部品を製造したデータがあります」
そう言える企業こそが、今の重工メーカーが最も求めているパートナーなのです。